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広島高等裁判所岡山支部 昭和34年(ラ)27号 決定

抗告人 小塚泰介

主文

原決定を取消す。

理由

本件抗告の理由は、民事訴訟法第百二十二条によれば訴訟上の救助を取消すには「救助を受けた者が訴訟費用の支払を為す資力を有すること判明し又はこれを有するに至つた時」と規定せられてあるところ、抗告人は家に妻並びに三人の子を有し、貧困に加うるに長男は不治の病に苦しみ、月々の薬代に追われている現状で、二男は小学校六年生で以前から市の法外援助を受けているものであるにもかかわらず、原裁判所は何らの根拠なくして抗告人に与えられた訴訟上の救助を取消し、訴訟費用の支払を命じたのは失当であるというにある。

按ずるに、訴訟上の救助の付与は訴訟費用を支払う資力のない者に対して、その権利の主張又は防禦方法を可能ならしめるためのものであるから、一旦訴訟が完結した後においては、訴訟上の救助の付与は勿論、訴訟上の救助の取消ということは有り得ないことといわなければならぬ。蓋し、救助の取消はそれまで与えていた救助を将来に向つて取り止め、爾後救助を付与することを拒むに過ぎないものであつて、既往に遡つて既に発生している救助の効果までも無効にするものとは解せられないから、訴訟が完結した後においては、既に取消の目的が存在しないものといわなければならないからである。抗告人が本件訴訟上の救助を付与せられた本案事件である抗告人と倉敷金融株式会社間の不当利得金返還及び損害賠償請求事件は、第一、二審上告審共抗告人の敗訴に帰し、右各審級における訴訟費用は総て抗告人の負担とするとの判決が確定して既に完結していることは、一件記録により明らかであるから、前述した通り右事件について、その完結前に付与せられていた訴訟上の救助の取消ということはあり得ないことといわなければならない。而して、抗告人がこれまで支払の猶予を受けていた、しかも抗告人において負担することに確定した訴訟費用の取立は、元来その猶予が無資力であることを理由として附与せられたものであるから、民事訴訟法第百二十二条に基き、その無資力の原因がなくなつた時において、猶予した訴訟費用の支払を命ずることによつてなさるべきものと解する。尚、右第百二十二条の規定は、恰も支払命令を発する前提として常に救助の取消をなすことを要するかの如く解せられないこともないが、前述の訴訟上の救助取消の本質や、同法第百二十一条が訴訟上の救助を受けた当事者の消滅により訴訟の承継がある場合に、救助の取消をなさずして直ちに承継人に対して被承継人に猶予した訴訟費用の支払を命ずることができる旨規定していることからして、救助の取消と猶予した訴訟費用支払の命令とは不可分で、双方同時にしなければならないものではなく、支払を猶予していた訴訟費用を取立てるには、救助取消の必要はなく、その支払を命ずるのみで足る趣旨と解するのを相当とする。

しかるに、原決定は抗告人に対し前記本案事件の完結前、第一、二審及び上告審で夫々与えられた本件訴訟上の救助を完結後に至つて取消し、且猶予した訴訟費用の支払を命じたものであつて、右のような決定のなされた理由については何ら判示するところがないから、これを知るに由ないが、今更訴訟上の救助の取消ということのあり得ないことは前記説示した通りであるし、記録を調査するも現に抗告人が訴訟費用の支払をなす資力を有することが判明し又はこれを有するに至つたものと認められる何らの資料も存しないから、前記の理由により猶予した訴訟費用の支払を命じた部分も亦違法であるといわなければならぬ。本件抗告は理由がある。

よつて主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 高橋英明 裁判官 浅野猛人 裁判官 小川宜夫)

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